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ロシア演劇情報

 また<黄金のマスク賞>の季節がやって来た

2011/12/27
 日露演劇会議事務局

ロシアも内外多事で、余り気分のよくないこの頃だが、舞台芸術はどんな時代も絶える事はない。さて2012年度の<マスク賞>は、コンクールが3月27日から4月15日まで、賞の発表は4月16日。この程、ノミネートが発表された。演劇に限って報告しておこう。「大舞台部門」は10、「小舞台部門」は7の作品が名指しされ、演出家、男女最優秀俳優、美術、照明の分野にも指名がある。ここでは作品のうち判っている、ないしは興味のある部分だけに言及する事をお許しください。

オムスク、エカテリンブルグ、アルタイ、ペルミなど地方からの参加は賑やかだが、情報不足で割愛。首都方面に限らせて頂く。『ブッデンブローク家の人々』というトーマス・マンの大作に取り組んだのが、モスクワのRAMT(ロシア・アカデミー青年劇場)、富裕商人だった初代から繁栄した一族が、音楽にしか興味のない4代目の青年で途絶えるという一族没落の物語。どう表現したか興味がある。怪演出家ネクロシュスが『カリギュラ』(ナショナル劇場)を出す。サチリコン劇場の代表であり、60歳の俳優・演出家が主演する『コンスタンチン・ライキン。ドストエフスキイの夕べ』は作家の4つの作品に触れるらしいが、ネットではひた隠しにしている。サンクトのアレクサンドリンスキイ劇場のフォーキンが演出する『わがゴーゴリ』には興味をそそられるが、情報が乏しくて残念である。

今年もチェーホフ作品が3つ出る。モスクワ・サチリコン劇場の『かもめ』は若い演出家ブトゥーソフが思いきりふざけて演出したらしいと言う事を、前回の報告で書いておいたが、サンクトの「大きくないドラマ劇場」の『三人姉妹』も、村井健さんがオムスクで見てブログでのべておられるのをみると、散々チェーホフをいじったらしい舞台だ。残る『三人姉妹』は、マールイドラマ劇場—ヨーロッパ劇のレフ・ドージン演出作品となる。彼はこれまでチェーホフに取り組んできて既に『桜の園』、『かもめ』、『ワーニャおじさん』(これは<マスク賞>受賞)を発表し、この制作過程は2010年に出した彼の著書「終りなき旅」に詳しい。今度の『三人姉妹』もどうやら閉塞の現代が色濃く反映されているようで、ブローゾロフ家は地味でラーゲリにも似て、登場人物の服装も相当に地味ながら、人間模様は「5プードの恋」に似て激しく悲痛な日常にさらされていると批評にある。

ジェノヴァチ演出『兄イワン・フョードロヴィチ』

話題作の一つは、セルゲイ・ジェノヴァチが「舞台芸術スタジオ」で出した『兄イワン・フョードロヴィチ』。2006年に出して大評判になった『少年たち』に続く、ドストエフスキイの『カラマーゾフの兄弟』続編。いよいよ登場人物たちの男女こもごも虚々実々の世界が舞台上に実現する。演出家が強調しているのは、カラマーゾフ3兄弟たちの年齢、アリョウシャが19歳、イワンが23歳、ミーチャでも27歳である事。これまで映画・舞台で中年俳優が演じて取り逃した世界が、原作に迫って表現されるのではないか、若い登場人物たちが人生のとば口でいかに生きるべきかを模索する姿をみられるのではないかと、期待される。(桜井郁子)