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ロシア演劇情報

モスクワで「チェーホフ祭」始まる

2011/06/17
 日露演劇会議事務局

4月15日<黄金のマスク賞——2011年>の発表があった。大舞台部門の最優秀作品に選ばれたのは、ワフタンゴフ劇場の『ワーニャおじさん』、小舞台部門の最優秀作品に選ばれたのは、フォメンコ演出の『三部作』(プーシキン原作による)であった。この欄で先に紹介した作品が選ばれたという結果になった。

さて恒例のモスクワ国際演劇祭『チェーホフ祭』が第10回を数えて、5月21日から始まり、7月31日に終わる。今年はロシアとイタリアおよびスペインとの記念年に因み、イタリアから2公演、スペインから4公演が予定された。この中で注目すべきは、バルセロナから来るS・ベケット作『初恋』や、同じくバルセロナ「コメディアントゥイ劇団」の『ペルセフェネ(冥界の女王)』、スペインの舞踏公演の他、英・仏・ロ合同公演のシェイクスピア作『テンペスト』など、多彩なプログラムである。

勿論ロシアからこの2年間に初演した評判作品17がノミネートされている。中で注目されているものをまず題名で挙げておこう。ベテランや中堅演出家によるものは、フォメンコ演出『三部作』を筆頭に、M・ザハーロフ演出『ペールギュント』(H・イプセン作)、K・ギンカス演出『狂人日記』(N・ゴーゴリ作)、V・フォーキン演出『コンスタンチン・ライキン。ドストエフスキイの夕べ』(これはサチリコン劇場監督でもあるライキンの60歳記念公演、ドストエフスキイの『地下室からの日記』より)、S・ジェノヴァチ演出『チェーホフの手帳』(チェーホフ作品と作家自身の生活からのコラージュ)など。

若い演出家たちによるものの中には、前回紹介した演出家D・クルイモフによる『カーチャ、ソーニャ、ポーリャ、ガーリャ、ヴェーラ、オーリャ、ターニャ……』(まるで女性の愛称を連ねたような題名だが、イワン・ブーニン作『暗い並木道』による)、『ワーニャおじさん』でワフタンゴフ劇場の監督になったリマス・トゥニマス演出の『仮面舞踏会』(レールモントフ原作。昔、意欲的な彼の同題名舞台を見た覚えがあるが、これは新演出らしい),フォメンコ工房新人のY・ブトリン演出作品『ルイジイ』(作者ルイジイの名をそのまま題名にしたこの作品は、歌や楽器演奏によるエカテリンブルグ市からスヴェルドロフスク市への旅行を描いたもの)などがある。

ベテランからの最近作で言えば、1917年生まれのY・リュビーモフが新作『仮面と心』を出す。これはチェーホフを主人公にしたもので、小説『曠野:』を基礎にして、作家自身をも登場させる。リュビーモフによれば「チェーホフはドクトルだったが、診断したのは病人ではなく、彼の生きていた社会で、重要なのは人間の心の状況で、仮面の下に隠された「心」を診断することだった。……」私にとっては、気質的にかなりチェーホフと異なるこの演出家がどんなチェーホフ観を示すのか、興味がある。

チェーホフ続きで言えば、若い演出家Y・ブトゥソフがはちゃめちゃな『かもめ』をサチリコン劇場で出した。トレープレフの「新しい演劇」についてのせりふを呟きながら演出家自身が、音楽とともに一味を率いて舞台に殴り込むという趣向があるとか。

話題作になりそうなのは、S・ジェノヴァチの新作『兄弟イワン・フョードロヴィチ』(ドストエフスキイ作『カラマーゾフ兄弟』の第11章(父親殺しの兄ミーチャの裁判前夜)の話。まえに出した、弟アリョウシャが主人公の一人の『少年たち』は、アメリカ遠征で好評だった。) 桜井郁子