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ロシア演劇情報

フォメンコ工房の“3部作”など

2011/01/22
桜井 郁子(ロシア演劇研究者)

新しい本『チェーホフ、チェーホフ!』を企んでいます。
多分、三月はじめには世に出るでしょう。その折りには暖かいご支援をお願い申し上げます。

日露演劇会議が新しいサイトを立ち上げて、ロシアの劇場へたやすくリンクできるようになったのは嬉しい事だ。“フォメンコ工房”のホームページを開くと、1月19日の夜まであったフォメンコ演出の『3部作』関連の動画が見られなくなってしまった。代わりに2010年6月初演、I・ポポーフスキ演出の『鏡の向こうの国のアリサ』(この題名訳でいいのかどうか、原作を知らないのであやしいが、)という工房初の児童劇が報道されている。この舞台のなんと華やかで、贅沢で、ファンタジーに溢れていることか。児童劇場では見たことのない豪華さだが、つぎつぎに転換するシーンに舞台・映像芸術の最新技法が取り入れられていて、この劇場がそれを可能にする場であることの証左になるだろう。

3部作「N伯爵」より

さて『3部作』、そっけない題名だが、これはプーシキンに関わる3部作の事。上演3時間余りの3幕に異なるジャンルの芝居を配してある。第1幕は<N伯爵>(プーシキン原作『ヌーリン伯爵』)で、センチメンタルな風刺劇したて。第2幕は<おお、マドンナ!>(プーシキン原作『石の客』)で、アイロニカルな小悲劇。第3幕は<退屈だよ、悪魔君……>(ゲーテ作『ファウスト』より)、表情豊かで、地獄と道化の活躍するバーレスク風に味付けされた。
フォメンコは観客に真近い前舞台を使うだけでなく、ホールの壁をつき抜けて、ロビーの壁に達する遠い空間へと舞台をひろげた。音響、照明にとって大仕事だったろうと思う。新旧俳優にとっても極限に近い演技を試み、強いられた舞台だった。プーシキン役のいる天井から垂らされた綱の下、左右に揺れる板の上で飛び移ったり、濡れ場を演じたり…… もちろん、せりふの他にアリアに近い歌唱もある。演出家はこの2008年に新設された劇場の限界まで可能な、壮大な実験劇を試みたし、劇団をあげてこの演出家に応えたのだった。終幕には客席を越えて飛来した数十メートルの絹布がファウストを覆う。絹布は波立ち、嵐をよび、運命の歯車が巨大な影となって廻る……。

3部作「ファウスト」より

2009年末の初演以来、シーズンごとに評判を呼び、今年も1月末から2月にかけての上演切符は、発売後、即完売になっている。2011年3月末から4月にかけて催される、第17回<黄金のマスク賞、2009−2010>には勿論ノミネートされた。作品だけでなく、演出家は勿論、装置家、照明家もノミネートされている。
作品の一端を味わって頂くために、いくつかの舞台写真を添付しておこう。 (桜井郁子)