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ロシア演劇情報

ワフタンゴフ劇場が三つの賞を受賞!

2011/01/12
桜井 郁子(ロシア演劇研究者)

ワフタンゴフ劇場の『ワーニャおじさん』の舞台

ワフタンゴフ劇場の『ワーニャおじさん』の舞台

まず初めに確認しておきたいこと。それは今も、ロシアの劇場(劇団)では、レパートリイ制が守られ、また概ねシーズンを一つの単位として、事が動いていることである。レパートリイ制とは、各劇場(劇団)は毎年いくつかの初演の舞台を開きつつ、いくつかの(劇場によっては20以上の)レパートリイを持っていて、日替わり上演をしていること。シーズンは、大体10月初めが幕開けで、冬を経て翌年6月末ごろに終わる。

2010年6月20日、ロシア演劇でも屈指の賞、“クリスタル・トゥランドット賞――2009-2010シーズン”の授賞式が行われ、モスクワのワフタンゴフ劇場が三つの賞を受けた。シーズン最高の舞台として、チェーホフ作『ワーニャおじさん』が選ばれ、最優秀男優賞を「ワーニャ」役のセルゲイ・マコヴェーツキイが受け、また新人賞に「ソーニャ」役のマリヤ・ベルディンスキフが選ばれた。

この『ワーニャおじさん』の舞台については後で触れることにして、「2009-2010シーズン最高作」についての“演劇スマトリーチェリ”の結果が大体出揃ったので、報告しておこう。

ここでも“断トツ”なのは、ワフタンゴフ劇場の『ワーニャおじさん』で、9人の選者(代表的な演劇評論家)のうち8人が第一位に挙げた。次に挙げられたのは、評がばらつくが、モスクワ・青少年劇場(略称チューズ)の『メディア』(セネカ、ジャン=アヌイ、ヨシフ・ブローツキイ作品より。作・演出:カマ・ギンカス)。同劇場の『おとなしい女』(ドストエフスキイ作。演出:イリーナ・ケルチェンコ)。モスクワ・フォメンコ工房の『三部作』(プーシキン作品より。作・演出:ピョートル・フォメンコ)……である(以下略)。

『ワーニャおじさん』を演出したのは、リトアニアの演出家リマス・トゥミナスである。「この舞台で観客はこれまでに見たことのない『ワーニャ』に会う、チェーホフの場面を破壊していないし、テキストを変えてはいないし、削ってもいないのにである。登場人物たちは自尊心と哲学談義、労働への愛と怠惰、奉仕と消費の混沌の中に生きている。人物はしゃべっていることとは違う行動をし、さらに別の思いを心の中に抱いている。主人公たちは、魂の衝撃の瞬間にだけ「何を思っているのか」を告白する、時にワーニャのように舌足らずに、あるいはアーストロフのように過度の大胆さで、息つまる部屋から新鮮な空気の中へ出てきた人のように、魂の底から荒々しく告白する。人物たちはそれぞれ、さまざまで、孤独で、時にはこっけいだ、そうだ、こっけいなのだ!

舞台は極端なまでに日常性を省かれており、バックにはオペラが絶えず流れていた。」

以上、劇評より。

次回には、フォメンコ工房の『三部作』についてお知らせしよう。