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活動報告

モスクワ訪問記(3)

2015/04/29
 日露演劇会議事務局

いい予感はなかなか当たらない。

しかし、悪い予感は当たる!

 

それを地で行ったのがエレクトロ劇場の「青い鳥」だった。

これはケンさんがロシアで見た最悪の舞台だった。

 

ストーリーは、「青い鳥」のストーリーにエレクトロ劇場の古参俳優(男女)2人の演劇人生を掛け合わせたもの。

いわばソ連時代から現在までの演劇人生と「青い鳥」探しをクロスオーバーさせた物語で、これに能の所作と「高砂」の謡が入るというもの。

 

それはいいが、役者たちは着ぐるみのカラスになったり、妖精になったりと大忙し。

まるでぬいぐるみショーだ。

 

役者はマリオネット。

為所がない。

エレクトラ劇場ファサード

 (初日のエレクトロ劇場)

 

よく言えばアバンギャルド。

一種のフィジカル演劇だが、冷たく言えば、独りよがりの金持ち坊ちゃんの演劇ショーといったところだ。

 

巨大なボーイングの機体を吊るしたり、リモートコントロールされた風船鮫が宙を飛んだり、ビジュアルにやたらとお金がかかっている。(下の舞台写真参照)

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延々と4時間半。

2幕が終わったところで3分の1が帰り。

3幕が終わったところでさらに3分の1が帰るという有り様。

 

残ったモスクワの演劇ジャーナリストたちもロビーで途方に暮れた顔をしている。

終了したのは夜の11時半。

 

外で夜食をと思ったが、店は12時でクローズ。

とうとう食いそびれたままホテルへと帰った。

 

しかも、これが全3部作の第1夜だ。

明日は、さらに4時間の第2部。

明後日は、2時間の第3部というのだから呆れる。

 

ケンさんは、2幕が終わったところで無性に帰りたくなった。

が、そういうわけにも行かず、ひたすら苦難に耐えた。

 

何しろ、ケンさんの席のソバには主宰者の演出家が鎮座している。

4幕目には、目を閉じ、

「早く終われ!」

と念じていた。

 

思えば前夜の食事会、「巨匠とマルガリータ」ゆかりの公園での食事は、この最悪の観劇のためのプロローグだったことになる。

当然のことながら、初日劇評は皆無。

 

おそらく3部作が終わった時点で「酷評」が出るだろう。

翌日、演出家のボリスと会談したおり、もっとカットすべきだということと、謡曲の選び方(実際の舞台では「高砂」を使っていた)を考えたほうがいいこと、劇中の説明セリフが多すぎることなどを指摘したが、はたしてどれだけ伝わったか?

 

それにしても、かつてロシアにこんな芝居をやる劇場はなかった。

それが、である。

 

様変わり?

いやこれからもっと増えるかもしれない。

 

ロシアの心ある演劇人の危惧もわかろうというもの。

ケンさんも、そう思う。

 

もっとも、ケンさんの知っている批評家はこの劇場の舞台を「論外」と一蹴していた。

本流は健在。

審美眼も、批評精神も揺らいではいない。

そこが、日本とは大違いだ。

 

帰国して見た新聞の夕刊にとてもプロとはいえない劇作コンクールの礼賛記事が「朝日」に載っていた。

 

そんなことで劇作家が本当に育つなら楽なものだ。

立派な見識である。

 

カーツ!