モスクワ訪問記(3)
いい予感はなかなか当たらない。
しかし、悪い予感は当たる!
それを地で行ったのがエレクトロ劇場の「青い鳥」だった。
これはケンさんがロシアで見た最悪の舞台だった。
ストーリーは、「青い鳥」のストーリーにエレクトロ劇場の古参俳優(男女)2人の演劇人生を掛け合わせたもの。
いわばソ連時代から現在までの演劇人生と「青い鳥」探しをクロスオーバーさせた物語で、これに能の所作と「高砂」の謡が入るというもの。
それはいいが、役者たちは着ぐるみのカラスになったり、妖精になったりと大忙し。
まるでぬいぐるみショーだ。
役者はマリオネット。
為所がない。
(初日のエレクトロ劇場)
よく言えばアバンギャルド。
一種のフィジカル演劇だが、冷たく言えば、独りよがりの金持ち坊ちゃんの演劇ショーといったところだ。
巨大なボーイングの機体を吊るしたり、リモートコントロールされた風船鮫が宙を飛んだり、ビジュアルにやたらとお金がかかっている。(下の舞台写真参照)
延々と4時間半。
2幕が終わったところで3分の1が帰り。
3幕が終わったところでさらに3分の1が帰るという有り様。
残ったモスクワの演劇ジャーナリストたちもロビーで途方に暮れた顔をしている。
終了したのは夜の11時半。
外で夜食をと思ったが、店は12時でクローズ。
とうとう食いそびれたままホテルへと帰った。
しかも、これが全3部作の第1夜だ。
明日は、さらに4時間の第2部。
明後日は、2時間の第3部というのだから呆れる。
ケンさんは、2幕が終わったところで無性に帰りたくなった。
が、そういうわけにも行かず、ひたすら苦難に耐えた。
何しろ、ケンさんの席のソバには主宰者の演出家が鎮座している。
4幕目には、目を閉じ、
「早く終われ!」
と念じていた。
思えば前夜の食事会、「巨匠とマルガリータ」ゆかりの公園での食事は、この最悪の観劇のためのプロローグだったことになる。
当然のことながら、初日劇評は皆無。
おそらく3部作が終わった時点で「酷評」が出るだろう。
翌日、演出家のボリスと会談したおり、もっとカットすべきだということと、謡曲の選び方(実際の舞台では「高砂」を使っていた)を考えたほうがいいこと、劇中の説明セリフが多すぎることなどを指摘したが、はたしてどれだけ伝わったか?
それにしても、かつてロシアにこんな芝居をやる劇場はなかった。
それが、である。
様変わり?
いやこれからもっと増えるかもしれない。
ロシアの心ある演劇人の危惧もわかろうというもの。
ケンさんも、そう思う。
もっとも、ケンさんの知っている批評家はこの劇場の舞台を「論外」と一蹴していた。
本流は健在。
審美眼も、批評精神も揺らいではいない。
そこが、日本とは大違いだ。
帰国して見た新聞の夕刊にとてもプロとはいえない劇作コンクールの礼賛記事が「朝日」に載っていた。
そんなことで劇作家が本当に育つなら楽なものだ。
立派な見識である。
カーツ!