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主催事業

「ハイスクール・ドラマキャンプin札幌」を終えて 

2012/09/02
 日露演劇会議事務局

7月24、25日の2日間、札幌・北海道芸術高等学校で日露演劇会議主催のドラマワークショップが行われた。参加者は、1年生・8名、2年生・5名、3年生・5名の計18名。講師は、24日ヴォイスのやまもとのりこ、25日演技の守輪咲良。
両日共、午前中2時間、午後2時間としたが、高校生の体力、集中力を考えるとこの時間でちょうど良かったようだ。
これまで札幌でのワークショップを可能にするには、東京・札幌間の交通費が大きな壁だったが、ちょうどこの7月から格安航空会社JETSTARが新千歳空港まで飛ぶことになり、また、学校側が助成金を出してくれた事で実現した。

参加者は全員、北海道芸術高等学校・声優コースの生徒たちだが、声優コースといっても、ここから東京の大手劇団養成所や演劇学校などに進み、俳優として育っていく者が少なくない。生徒たちは概して明るく熱心で、積極性が感じられた。

さて、初日のヴォイスからの報告を私なりにまとめてみた。
『声優コースということもあってアナウンサー出身の先生が指導されており、日常はあまり発声練習に時間をかけず、何かを読む授業が多いと聞いて、午前中は簡単な声の仕組みを説明することからはじめたが、全体的にまだ生徒たちの息が弱いので、全身を使う動きとともに息のエネルギーを出すことに時間をかけた。

午後は短い詩を使って、声の響きやことばのイメージについて。
「相手に届ける」ことを2人で手を取って実感しながら、聞く側にも「自分に言われた」感覚を探ってもらった。できれば午前中にやった声で大きくやって欲しかったが、その定着には時間がかかるので、「内容をきちんととらえて誰かに伝える」ことに重点を置いた。後日、学校が送ってくれた生徒たちの感想には「発声の方法が分かった」という点と「伝えること」への感想が多かったので、内容は良く理解してもらえたと有難く思った』
 
2日目は私、守輪担当の演技。歩く、座るなど生活のなかの基本行動を基にいくつかエチュードをやったが、与えられた状況によって、同じ行動が大きく違ってくることなどを体験。生徒たちは一人ずつ前へ出て課題をやることが多かったのだが、ギクシャクすることも抵抗もなく素直に出ていって始める。
後半になって、当校が「メソード演技」を基に指導されていることが分かり、なるほど生徒たちには「基本行動」の練習に違和感がないのがうなずけた。
そこで、日頃疑問に思っている演技のことなどの質問を受けることにした。
3年生から人前に出たときの体の緊張の問題が話に出たのをきっかけに、3年生を中心にエチュードのレベルをちょっと上げて、残りの時間を感動表現(暑い夏、山道を歩いてきたが、突然、目の前に海がひらける)にチャレンジした。
普段、生活のなかで自分の感動や衝動を表現し慣れない日本人にとって、これはかなり苦手なエチュードでやはり全員が上手くいかずに終わったが、これからの課題をひとつ具体的に残した形でワークショップは終了した。

後日、生徒たちから手紙という形でワークショップの感想が送られてきたが、3年男子の感想が印象に残ったので、一部、紹介する。
『日頃、疑問に感じていた事が「そうだったんだ」と、自分の中で次々と解決していきました。同時に五感へのトレーニングの甘さを実感しました。[中略]感情が体の緊張によって表現できない、素直に出てこない悔しさと、演じる事への楽しさを知ることができました』
そして最後に『今回の経験を活かして、「メソード演技」への理解を深め、人間としても良い感性を持って、豊かな表現のできる役者になれるよう励みます』と結ばれていたが、〈人間として〉そして〈役者として〉の両面から学んでいこうとする演劇高校生の言葉に、これからの日本の俳優教育に必要な大切なものをあらためて考えさせられた。

手紙の感想はすべて紹介したいくらいだが、多いので幾つかを抜粋して紹介する。

◎「先生!この子はトラウマを抱えているが、どうしたら良いか」と3年男子から帰り際に声をかけられ、紹介された3年女子生徒からの手紙:
『最後に先生に教えていただいたトラウマやコンプレックスさえも自分に個性だと認めることができて、嘘のない、より人間らしいお芝居をできるようになることが今後の自分の課題になりました』
※ 注:私は「トラウマも俳優にとっては(表現のための)宝物であること、今はもっと大人になるまでとっておくように、そして良い俳優になることをめざしていって欲しい」と話した。

◎2年女子
『最後の3年生と話していた演技のお話も自分の考えが変わり楽しかったです』

◎1年女子
『歩くという演技だけでも、いろいろな状況によって歩き方が変わるという事を実際やるまでは簡単そうに見えたけど、自分が実際やってみると、意外と難しいものだと実感することができました』
◎ 1年女子
『自分が今何をすべきなのか、課題が沢山見えましたし、改めてお芝居は面白いと思わせていただいたので、本当に参加して良かったなと思います!』
◎1年男子
『本当に分からない部分が出てきましたが、先輩の様子を見ている限り、自分とは別な物が見えていると考えていいのでしょうか? 自分が3年になった時、学んで理解した時、分かるのでしょうか? ご指導ありがとうございました。』

1年生はまだやっていないことが多く、はじめは3年生と一緒に参加することに問題がないか心配だったが、〈難しかったけど、演技は楽しい〉と受けとめてくれた感想がほとんどだった。
次回のワークショップが実現した時に、こういった顔ぶれがどう成長しているか楽しみでもある。

終了後、ワークショップ担当の先生と演技指導の先生と3人で話し合うことができ、有意義な意見交換ができた。帰京後、「今後もワークショップをお願いできるなら、とても嬉しく思います。」という内容のメールをいただき、来年度に向けてはりきって企画の内容を検討中である。     守輪咲良(演出家・日露演劇会議常務理事)

受講生と守輪理事(前列中央)