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日本演劇情報

クルガン人形劇場における『かぐや姫』の演出

2019/09/21
 日露演劇会議事務局

クルガン人形劇場における『かぐや姫』の演出

担当理事:西村洋一

 

クルガン人形劇場「ガリバー」は、2018年に創立75周年を迎えた、ロシアで最も古い人形劇場のひとつです。また、過去に二度、ロシアの舞台芸術賞である「黄金のマスク賞」にノミネートされた実績があり、今回『かぐや姫』が三度目のノミネートをされています。伝統と実力を兼ね備えた人形劇場です。
そのクルガン人形劇場から、劇場のレパートリーとなる作品を創ることを依頼され、日本側からは、わたくし西村(演出)、黒谷都(人形演出)、渡辺数憲(人形美術・舞台美術)が参加。ロシア側からは、クルガン人形劇場の人形遣いたち、音楽家、照明家などが参加しました。
プロジェクトが立ち上がってから、一年程で稽古を始めることができました。クルガンでの稽古期間は、一か月ちょっとでした。その間、ロシアの人形遣いたちの方法と、わたしが用いていた方法とをすり合わせるのに、だいぶ苦労はしました。ですが、いったん分かり合えてしまえば、さすがに高いレベルにある人形遣いたちなので、稽古はどんどん進んでいきました。

作品中、言葉は一言も発せられません。それでも、人形たちは表現豊かに、内容を伝えてきます。このことは、ロシアの観客にもある種の驚きを持って受け止められました。言葉を発しないという表現方法は、人形演出の黒谷氏らが持つ特徴の一つであり、それを生かして作品作りをしました。

 

登場人物は、かぐや姫、おじいさん、おばあさん、ミカドの4人。かぐや姫は人形で、おじいさん、おばあさん、ミカドらは、お面を用いて表現しています。

 

 

舞台上には回転する盆が二つあり、その上に竹林がつくられています。それらが回転して位置を変えることで、各シーンを表現します。空には常に月が浮かんでいますが、それが時おり明滅して、かぐや姫と対話したりするシーンもあります。

 

音楽は、ミハイル・シャラバキンが作曲しています。主に現代楽器であるグリュコフォンや、縦笛などが用いられています。「あえて「日本的」なものにはしないでほしい」という、わたしのリクエストに応えてくれたものです。グリュコフォンの音は、イメージ的には鉄琴に近いものですが、より豊かな音色が出ます。

あらすじ的には、おおよそ原作の通りですが、「ミカドの夢」という、原作にはないシーンがあります。ミカドが夢の中で、かぐや姫と竹林でひと時をすごします。このシーンは、一人の人形遣い(タチヤナ・コーキナ)で演じます。人形遣いがミカドの面をかぶってミカド役になり、人形のかぐや姫と関わっていきます。これは黒谷氏らが得意とする表現方法の一つであり、このシーンはロシアで高く評価されました。

初日は、2015年の4月でした。ロシアの観客に伝わってくれるだろうか、という不安もありましたが、終演後には、涙を流している方々もいらっしゃいました。

その後、『かぐや姫』は2016年度の「黄金のマスク賞」にノミネートされる、という幸運にも恵まれています。「黄金のマスク賞」は、ロシアの国家的な舞台芸術賞です。毎年開催されており、年度ごとの新作が対象となります。人形劇だけでなく、演劇、バレエ、オペラなども含めた、舞台芸術の全般に渡る賞です。人形劇、演劇など、分野ごとに授賞されます。受賞こそなりませんでしたが、一定の評価を得たようです。

また、かぐやの人形を遣った、人形遣いのタチヤナ・コーキナは、2017年3月に長年の業績に対してロシア文化省より表彰を受けています。現代ロシアを代表する、優れた人形遣いの一人です。

 

『かぐや姫』は、現在でもクルガン人形劇場のレパートリーとして定期的に上演されており、これまでにロシア内外のフェスティバルに参加しています。2018年には来日公演も行い、いいだ人形劇フェスタとシアターΧ(カイ)にて上演されました。