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主催事業

第5回演劇教育研究会報告

2014/12/21
 日露演劇会議事務局

 『「レーチ」に学ぶスタニスラフスキーの基礎訓練』   担当理事:守輪咲良

今回、研究会はワークショップを開催し、ロシアの俳優教育の基礎づくりに欠かせな
い「レーチ」を実践体験しました。
指導はサンクトペテルブルク演劇大学に学んだ西村洋一さん。
見学者を含めて15名が参加。
大学生、スタニスラフスキーの翻訳者、ヴォイス・トレーナー、人形遣い、ドラマ
ティーチャー、俳優などいろいろな方にお集まりいただきました。

まず、テニスボールを使って2人でのやり取り。
ボールは声でもあり、言葉でもあり、最終的にはセリフでもあって、身体を使って相
手にとどけられること。言葉はまったく意味のない呪文のような「ムモマメミ」。
セリフは用意されたプリントから一つ二つ暗記して、ボールを相手に投げながら「ム
モマメミ」を言ったり、セリフを言ったり。
慣れてきたらボールを置いて、右手をヘビのように操りながら魔法の言葉「ムモマメ
ミ」と「セリフ」を交互に言いながら、同時に自由に動きながら相手とやり取りしあ
う。

WSレーチ

「ムモマメミ」がなぜ魔法の言葉なのか? 意味のない「ムモマメミ」を先に唱える
ことで、セリフを頭で考えたり、事前に言い方を用意したり、セリフの内容に囚われ
ることなくセリフが出てくる。構えがなくなる、魔法のように!
ワークショップ開始から1時間30分近く経った頃、最後の2人がようやく自分の衝動
にのって動き始め、セリフが生き生きし始めた。

残りの時間は質問に応える形でレーチについていろいろ話し合いました。

・ レーチとは? レーチを学ぶことからどのように演技に生かされていくのか?
西村:レーチではセリフを言うために必要な訓練をすべてやる。
身体とつながった声を出せるようにすること。
そのために身体を動かしながら声を出す。
また、想像力とつながった声を出せるようにする、など。
また、早口言葉、滑舌なども含む。

スタニスラフスキーの基礎訓練として1年、2年をかけて、レーチを身体に組み込ま
せていく。最初は徹底的に身体を動かしながら、それから身体を動かさずに!

・ 潜在意識をあつかうことに触れて
西村:スタニスラフスキー・システムの本質的な点は、潜在意識を生かして演技する
ということである。レーチは、そのスタニスラフスキー・システムにのっとった方法
なので、レーチにおいても潜在意識が生かされているような、声や言葉の発し方を会
得できるよう訓練する。
安達:カリャーギン※が言っていたこと。「俳優の仕事は潜在意識をあつかうこと
だ」
※ロシアを代表する俳優の一人。「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」ほ
か、多数。
西村:スタニスラフスキー・システムに基づいた、潜在意識が働くような声の出し方
がある。

・ 役を演じる場合、いろいろな制約があって自由にならない。ワークショップで
やったように自由に動けないが、どのようにしていけばいいのか?
守輪:俳優は舞台上で身体を動かさない時でも内面は常に動いている。
西村:ロシアの演劇大学では1年目は身体をうんと動かしながら詩の朗読などの稽古
をし、2年目では身体を動かさずにやるなどのカリキュラムが組まれている。
制約のある方が難しいが、制約があっても生きた演技、声などの潜在意識が動いてい
る。レーチでは作品づくりはするけれど、役づくりはしない。

参加者の声から
・ 「動けないでいる自分がいた。自分の壁をまた感じた」
・ 「メソッドでもレーチでも、頭で理解するものじゃないな」
・ 「腕に入りすぎている力を抜くように言われ、ふっと抜いた瞬間、全身を意識で
きた。言葉と全身がつながった瞬間だったような気がする」
・ 「一度の体験で修得は無理だ」

「演技の本質に向けての基礎訓練」というコンセプトそのものが日本ではまだ受けと
めきれないことが多いようです。日本での基礎訓練といえば、一般的には発声、滑
舌、ストレッチ、腹筋、言葉、セリフなどそれぞれが個々に訓練されますが、個々の
訓練を一生懸命やればやるほど力の入った頑張る演技が生まれていきそうです。

俳優が声、言葉、身体、内面などひとつにつながった状態を体験してこそ、舞台に
「いる」感覚を自覚できるだろうし、そこに起こる「生きた演技」を体験できるので
すが、理屈抜きでそこへ導かれることが大事だと「レーチ」は教えてくれています。